新日本プロレスの内藤哲也(40)が、21日のノア東京ドーム大会で行われた武藤敬司(60)引退試合の〝真実〟を明かした。38年にわたる現役生活最後の相手に指名され、惜別のデスティーノで介錯人としての務めを果たした。あの日、歴史的一戦のリング上で何を考え、何を感じ取ったのか。そして〝ボーナストラック〟となった武藤と蝶野正洋(59)の特別試合に、制御不能男が見たものとは――。
内藤が初めて憧れた存在であり、レスラーを目指すきっかけをつくってくれた武藤の引退試合。2012年1月の新日本東京ドーム大会で完敗を喫していた内藤は「これだけ注目されるメインイベントで早くリベンジを果たしたい。でも、それを果たすイコール、プロレスラーの武藤敬司選手は終わってしまうわけで。複雑な気持ちで入場を待ってました」と試合当日の心境を振り返った。
戦前に予告した「完封勝利」とはいかなかった。蝶野のSTF、故橋本真也さんのジャンピングDDT、故三沢光晴さんのエメラルドフロウジョン…武藤が同じ時代を生きたライバルたちの技を浴びる場面もあった。
「『今の武藤敬司』にこだわってくると思ったのでちょっと意外でした。でも、俺が客席にいたら興奮してたでしょうね。普段使わないような技を使ってでも勝ちたいっていう部分で、執念は感じましたよ」
しかし、武藤は2度コーナーに上りながらムーンサルトプレスだけは飛べなかった。その場面を内藤は「そりゃ食らいたくはないですけど、やってほしかった気もします。まあ、あそこが勝敗の分かれ目にはなったんじゃないですか?」と分析する。
普段使わない技を使用したのは内藤も同じだ。おきて破りのドラゴンスクリューはレスラー人生で初めて使った。フィニッシュのデスティーノの直前には、武藤の代名詞・シャイニングウィザードも繰り出した。
「学生時代のプロレスごっこでは、武藤敬司役をずっとやってましたから、ちょっとやってみたいなと思っちゃいました。最後も、俺をプロレスに熱中させてくれたことへの『ありがとう』の意味も込めて、あえて武藤選手の技を使ってみたってところですね」と解説する。
武藤から3カウントを奪った内藤は、マイクアピールをすることなく先にリングを下りた。これも戦前から決めていた行動だった。「俺はやるべきことは全部やったつもりです」
ところがその後にサプライズが待っていた。何と武藤がゲスト解説を務めていた同期の蝶野をリングに呼び込み、特別試合が実現したのだ。
結果的に武藤を完全燃焼させる役割は、内藤ではなく蝶野が果たした。完全に〝オイシイ〟ところを持っていかれた格好だが、内藤はそのフィナーレに武藤イズムの真髄を見たという。
「まだリングを下りたくない気持ちが出たんじゃないですか? 『俺が最後じゃないのか』って悔しさはありつつも、本当にこの人はプロレス好きだったんだな、ビジネスで言ってるんじゃなく、心の底からプロレスLOVEだったんだなって。悔しいけど、あの行動で改めて感じましたよね」
去り行く背中を見て、自身の引退観にも多少の変化が生まれた。これまでは、もしも現役を終える時が来ても派手な演出はしたくない気持ちが強かったという。
「例えばデビュー戦の会場(草加市スポーツ健康都市記念体育館)だったり、出身地である東京都足立区の会場(で引退)っていうのをイメージしてきましたけど。でも、実際に東京ドームでの引退試合の相手を務めてみて、ああ、こういうのもアリだなって初めて感じましたね。大きい舞台で華々しく引退というのも悪くはないなと」と、現在の心境を明かした。
もちろん可能な限り、これからも業界の先頭を走り続けるつもりだ。「武藤選手に憧れたレスラーってすごく多かったと思う。その中で引退試合の相手を務めたのは、エクストラこそあれど世界中で俺しかいないんですよね。あと何年あるか分からないけど、俺はこの貴重な経験を生かして残りのレスラー人生を…ばく進しますよ」
あえて武藤の名言を引用し、再び未来へと目を向けた。