【今村猛 鉄仮面の内側(20)】何をきっかけにいつから始まったとかは忘れてしまったんですけどね。カープ時代に選手間だけってわけでもなく、誕生日とかにプレゼント交換するのがはやった時代があったんです。
特に覚えているのは救援投手として切磋琢磨した中崎翔太です。ロッカーが隣の時期があって、僕からは競馬好きの彼のために馬にちなんだ小物とかを贈っていたんですよね。
ところがある日のことですよ。マツダスタジアムのロッカーに行ったら、どデカい釣りざおケースが置いてあったわけです。バットケースと間違うようなサイズじゃないですよ。結構、太くて長いケースです。
こんなデカいものを、この場所に誰が置いたのかと想像すると、笑えるなと思うサイズなんです。で「お誕生日おめでとうございます」というプレートまでちゃんと貼られている。
周りの人に「これ誰から?」と聞いても知らないと言うし、隣の中崎に聞いても「知りませんよ~」とか言ってくる。結果、中崎だったんですけどね。
もちろん「ありがとう」っていう気持ちはあるんですよ。でもね、野球場っていわば職場じゃないですか。そこに釣りざおを持ち込んでくるってどうなのかとか。試合の日でもありましたし。僕たちもまだ若い部類でしたし、昔だったらタブーだったんだろうなと思ったりしましたね。
今思えばカープが3連覇に向かって強くなっていく中で、昔ながらの野球部の上下関係的なものが薄くなっていったような気がするんですね。賛否あるかもしれないですけど。
菊池涼介さんなんかが先輩にちょっとアウトだろというようなツッコミを入れることがよくありました。でも、それによってチームの雰囲気が良くなっているのを僕は一人の若手として肌で感じていました。
大昔だったら「お前しばくぞ」な状態だったかもしれないですけどね。カープの当時から今に至る雰囲気っていうのが、菊池さんのような存在のおかげでフランクになっていった気がしますね。
ただ節度というのももちろんありますよ。菊池さんのような振る舞いを若手みんながやるとおかしくなるんですが、そこが菊池涼介さんの人柄というのか。
黒田博樹さんや新井貴浩さんがチームに帰ってきて、若手からすれば気を使う部分もあったかと思います。でも、菊池さんのいたずらにあの黒田さんが笑ってこんなリアクションをするんだというふうに後輩が見ていて、怖い先輩だと決めつけていたレッテルが外されていった部分もあったんです。
ヒーローインタビューで鈴木誠也が黒田さんに水をかぶせようとして、自分でかぶった場面がありましたよね。それを見て笑っている黒田さんの反応だったり、そういうことを重ねてチームに一体感が出てきていることを感じていましたね。
ちなみに中崎からもらった釣りざおケースは今の自宅にありますよ。「おめでとう――」のプレートも貼ったまま。最高のチームメートと仲良くさせてもらったのは大切な思い出です。