ドンキのPB(People Brand)には“ニュース”がある! お酒とおつまみなしでは始まらない年末年始にぴったりの商品を開発担当者に直接取材。流通ウォッチャーの渡辺広明氏(55)がかねて提言してきた「買い物するときのワクワク」がパッケージからあふれていた――。
「おつまみの売り上げは年末年始の1週間が1年で最大のピーク。お盆やお花見など人が集まるタイミングでも売れますが、通常の2~3倍となる年末年始はやっぱり特別ですね!」
こう話すのは「ドン・キホーテ(以下ドンキ)」を運営する株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)のフード・リカーMD開発本部の渡辺友成サブマネージャー。
ドンキでは多数のおつまみが陳列されているが、その中でも異彩を放っているのが、自社開発のプライベートブランド(PB)おつまみの存在だ。ドンキは2021年2月にPBである「情熱価格」のリニューアルを実施。それまでの商品群がいまひとつ面白みに欠けていたことを猛省し、自社都合だけで作るPBを改め、お客様と一緒に作る“ピープルブランド”宣言を行い、ロゴを一新したことで、社員の意識も猛烈に変化したという。
「国民全員に向けての商品だったらNB(ナショナルブランド)でいいじゃないですか。ドンキらしさって何なのかを突き詰めて考えた結果、私は予定調和じゃないことが大事だと思ったんです。ドンキって生きていく上で必要がない商品も多くあって、だからこそ、逆説的にお客様に買い物を楽しんでもらえる場所なのでは」(渡辺友成氏)
ドンキの代名詞である手書きPOPも、もとをたどれば24時間営業が多く売り場の担当者常駐が難しいという制約を抱える中、どのように仕入れたのか、どこがセールスポイントなのかを消費者に伝える目的で生まれたものだった。今回のPBリニューアルで文字数が多いパッケージが増えたのもまた、消費者が知らなかった情報を“ニュース”として届ける意図があるという。
たとえば人気の「しいたけスナック」にはこんな“ニュース”が印字されている。「『しいたけ』嫌いの人に本当に美味しい『しいたけ』を食べて欲しいと『しいたけ』愛溢れる担当者が様々な産地・品種の『しいたけ』を食べ比べ 味付けに至るまで徹底的にこだわり、遂に完成!『しいたけ』嫌いな人に美味しいと言わせた これぞ正に、『しいたけの大逆襲』」
なんと100文字超! 渡辺友成氏は「いかに『しいたけ』というワードを盛り込むか遊び心で作っただけです」と謙遜するが、これはもう“しいたけ文学”と言っても過言ではない。ちなみに渡辺友成氏はしいたけ嫌いだというから二度面白い。
こうした前例にとらわれない商品開発が進む中、超高級ビーフジャーキーもヒットを記録した。
「精肉ブランド『久善』とコラボしたジャーキーなんかは発売前に『常識ハズレだ』と社内でも厳しい声が上がりました。一般的な価格帯が600~800円なのに、1・5倍するのだから当然です(笑い)。でもふたを開けてみれば工場が回らなくなるくらい売れました。全員が買わなくてもコアな人に刺さる商品を開発すれば売れるんだと自信になりましたね」(渡辺友成氏)
商品パッケージの情報量が増えていることを渡辺広明氏は「商品の多様化が進んでいるので必然だ」とした上でこう分析する。
「かつて『化粧惑星』という名のコンビニ化粧品シリーズがあったんです。今でこそコンビニコスメも当たり前ですが、2001年の発売当時はかなりの挑戦でした。化粧品のことまで説明できる店員がいないのでパッケージに商品説明をつけるしかない。化粧品はイメージで売る要素も強いものなのでスタイリッシュであることが第一、日本語でダラダラと説明を入れるのはご法度だったがこれを破って成功した。そもそもブランド力で売るNB商品と違って、PBは“違い”を説明することが不可欠。ドンキはそこに遊び心も盛り込んでいてとても面白い取り組みと言えるでしょう」
驚安プライスも、大容量も、はたまた失敗商品もすべてが“ニュース”になるのがドン・キホーテ。テーマソングの歌詞にもあるように「いつでも満足 不思議なジャングル」は今夜も眠らない。
☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。フジテレビ「Live News α」レギュラーコメンテーター。