【伊藤真澄「ユメのなかノわたしのユメ」】

 昨年このコラムで取り上げたユニット“Oranges & Lemons”のメンバーでもある伊藤真澄。同ユニットの「空耳ケーキ」もかなりのひねくれポップスだったが、この「ユメのなかノわたしのユメ」もポップでキャッチーながら一筋縄ではいかない凝りに凝った楽曲だ。

 2012年に放送されたアニメ「人類は衰退しました」のエンディングテーマ。同アニメは、衰退してしまった人類(旧人類)と、新たに高度な文明を持つに至った新人類の“妖精さん”が共生する未来の世界を舞台にしたディストピア・ファンタジー。作品全体の雰囲気は、キャラクターの造形も含め、ほのぼのとしているが、その奥にはけっこうブラックな闇が潜んでいる。

 そんなアニメのエンディングに流れるこの曲は、サイケデリックにうなるストリングス、浮遊感たっぷりなボーカル、1コーラス内で転調しまくるメロディーと、1960年代後半の英国ロックが好きな人なら悶絶ものの、サイケで無国籍でポップでシュールなサウンド。

 少々乱暴な例えになるが、ザ・ビートルズのアルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」の全曲をミキサーにぶち込んで出来上がったジュースのような感じと言ったらなんとなくイメージできるだろうか? 曲名にも共通点があるジョン・レノンのソロヒット曲「夢の夢」にも通じるところが感じられる。

 目を閉じて聴いていると、まるで自分が迷宮に足を踏み入れてしまったかのような感覚に陥るほど。こういうタイプの曲はJポップのヒット曲にはほとんどない。アニソンというジャンルは、アーティストが高い自由度で冒険できる場なのかもしれない。