安倍晋三元首相(享年67)が今月8日、奈良市で行っていた参院選の街頭演説中に銃撃され、死亡した事件で、元海上自衛隊員の無職山上徹也容疑者(41)は、より殺傷能力の高い銃を選んだという趣旨の供述をしていることが12日、わかった。そうしたなか山上容疑者は複数の過激な“反アベ”の団体に所属していたとの情報が浮上した――。

 山上容疑者は奈良県警の調べに対し、「事件前日に安倍氏が演説した岡山市の会場に持って行った銃とは別の銃を当日は使った」と説明しているという。

 安倍氏を銃撃した8日には、一度に複数の弾丸が出る、散弾銃のような手製の銃を使った。一般的に散弾銃は、近距離での命中率が高いとされる。7日に岡山に携行したのはこうした銃ではなかったが、8日になってより殺傷能力の高い手製の銃を選んだことになる。県警はその経緯を調べている。強い殺意をうかがわせる山上容疑者だが、安倍氏を狙うようになったきっかけは母の破産とされる。

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は11日の会見で、山上容疑者の母が1998年ごろに入信、2002年ごろに経済破綻したことを今回の事件後に把握したと説明している。

「主文 破産者を免責する」

 官報によると、奈良地裁が、山上容疑者の母の自己破産が確定したとしたのは、02年12月10日だった。

 山上容疑者は当時、海上自衛官だった。母はかねて自宅を売却するなどカネの工面に四苦八苦していたが、苦労して手に入れたカネを旧統一教会に、巨額の献金としてつぎ込んでいたとされる。

 山上容疑者にとっては忘れられないことなのだろうが、20年もたってから旧統一教会との関係を理由に安倍氏を銃撃するとは何とも理解に苦しむ。山上容疑者は海上自衛隊に在籍(02~05年)後、20年秋から大阪府の人材派遣会社に在籍したが、実は05年から20年までの15年間、大阪府内で職を転々としていたことしか分かっておらず、捜査当局はこの期間の動向にも関心を持っている。

 そんな中で浮上したのが、山上容疑者は“反アベ”の団体に所属していたとの情報だ。

「山上容疑者はリベラル色が強い“反アベ”団体に所属していたのではないかと言われています。安倍氏の長期政権の“独善的”な姿勢を嫌う団体。会員は数千人規模です」とはテレビ局関係者。この団体は安倍氏だけでなく、父の故安倍晋太郎元外相、祖父の故岸信介元首相の安倍ファミリーをも敵視する。特に団体幹部は、SNS上で安倍氏を攻撃していた。

 山上容疑者は奈良県警の調べに、動機について「安倍氏の政治信条に対する恨みではない」と供述。同関係者は「その団体の中で積極的に活動していたというより、団体の活動を“支持”していたのではと言われている」と話す。この件について団体幹部に「山上容疑者は団体会員か」と問い合わせたが、折り返しはなかった。

 それだけではない。捜査当局はもう一つの過激な団体にも注目している。事情に詳しい関係者の証言。

「団体の実名は明かせませんが、かなり好戦的な思想で、やはり反安倍。しかもこの団体の背景がかなり不気味で、闇に包まれている。山上容疑者が洗脳された可能性がないか重要調査対象となっています」

 実際、山上容疑者は取り調べで「安倍氏が旧統一教会とつながりがあると思い込んで犯行に及んだ」という趣旨の供述をしているという。この「思い込んだ」と発言している点がポイントで、当局は山上容疑者が何者かに知らず知らずのうちに“洗脳”された線も探っている。
  
 ここで思い出されるのは1963年11月22日、遊説先のテキサス州ダラスで起きた第35代米国大統領ケネディ暗殺事件だ。単独実行犯とされたオズワルドも逮捕直後にジャック・ルビーによって射殺された。死の直前にオズワルドが「I’m just a patsy(ハメられた)!」と残した言葉から、何者かがオズワルドを“洗脳”したとの見方は根強い。山上容疑者が“洗脳”されていたとするのは現時点では臆測の域を出ないが、もし自分の人生が誰かが描いたシナリオ通りに歩まされていたとしたら…。事件は異様な展開を見せている。