どんな人が再就職しやすい? どんな働き方をすれば職場で重宝される? 老後2000万円問題がクローズアップされる中、いかに長く楽しく働くかは多くの人々の関心事となっている。そこで今回は人材派遣会社の代表として3000人以上の転職・再就職をサポートしてきた郡山史郎氏(84)に「定年後の働き方」について教えてもらった。
――著書「定年前後『これだけ』やればいい」(青春出版社)の中では、どのように行動すれば定年後の働き方がうまくいくかについて、実例も含め細かく書かれています
郡山史郎氏(以下郡山)前提条件として、人生の前半戦と後半戦で働く意味が変わるのを理解することが大事です。50歳までの前半戦では競争社会の中で働き、結果を出すことが求められてきました。ところが50歳からの後半戦では競争に勝つ必要はなく、自分自身の生きがいを求めて、自分のために働くことが大事に。いわば、競争から共存へとシフトチェンジすることが重要です。
――求められる役割が違ってくる、と
郡山 野球でいえば、すでにプレーヤーではなく、グラウンドキーパーとなる気持ちと表現すればいいでしょうか。いかに職場環境を整えるか、サポートできるか。そういった態度、マナーがある人が再就職なども含め、有意義な仕事の選択ができている気がします。
――具体的に定年後の再就職がうまくいく人の特徴とは
郡山 まずは現役時代の役職、収入にはこだわらない。私のところにも「大企業の営業部長を務めていました。希望する仕事は海外営業のポジションです」などという方も来ますが、まあ仕事は決まりません。「年収が〇万円以上でないと」「この仕事は嫌だ」という人は難しいです。シニアの求職では求職者と採用側がお互い歩み寄ることが何より重要となります。たとえば海外営業を行っていて英語が堪能となれば、英語の講師などもいいかもしれない。
――一つの職種を求めるのではなく、柔軟な対応が求められると
郡山 人間には多面性があります。再就職にあたっては「自分には何があるのか、何ができるのか」を掘り起こすことが大事です。たとえば、若い人のように今さらパソコンを使っての仕事や肉体労働は厳しいかもしれない。一方で人生経験は豊富です。世の中のことがわかっているから、たいがいのことが起こっても驚かない。
――年の功ですね
郡山 私自身、営業に関するクレーム処理、トラブル処理を行うのは大好きです。「大丈夫、オレに任せておけ」ってね。この年になれば、相手に怒鳴られようとバカにされようと何てことはない。これは我々にしかできない領域だと思うんですよ。だから、たとえばシニアの方は企業のお客様相談室やクレーム処理などの仕事も向いているかもしれない。このように何ごとも前向きに考えていく姿勢は必要になってくるでしょう。
――読者の中にはまだ定年を迎えていない人もたくさんいます。人生の後半戦をより良く働くために準備すべきことも教えてください
郡山 まず30代のうちはがむしゃらに働いて、キャリアを作る。そして40代になったら、次の20年を考えて、スキルを作っておく。後半戦に向けて、いよいよ真剣に戦略が必要になってきます。一般論としては45歳を過ぎたら新しい技能を習得したり、新しいキャリアを作ることは難しくなってくる。ここで「自分が求めている幸せとは何か」「定年後に何をするか」をしっかり考えておく。具体的には3つぐらいの道をプランとして挙げておくことが大事です。
――なぜ3つ
郡山 たとえば知人の会社に行く約束をしていてもその会社が倒産することもある。その上で「これがダメになったら…」と複数のオプションを計画しておくのがオススメです。そのためには日頃から、友人、知人を通じて「何か仕事はありませんか」とアンテナを張っておくことも欠かせません。
――ちなみに老後資金2000万円問題はどのようにとらえていますか
郡山 いろいろと大騒ぎしていますが、100歳まで生きるとして月に5万円稼ぐにはどうすればいいかを考えればいいだけです。私自身、84歳となる現在でも、毎朝混みあう通勤電車に乗って出社しています。いろいろな人に会うのも楽しいし、それが生活の張りにもなるんですよ。要するに「今、何ができる」「将来、何ができるか」をしっかり考えて準備しておくこと。それに尽きると思います。
★プロフィル=こおりやま・しろう 1935年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、伊藤忠商事を経て、ソニーへ入社。その後、米国のシンガー社に転職後、81年ソニーに再入社。ソニーPCL会長、ソニー顧問などを歴任。2004年、人材派遣会社「CEAFOM」を設立。これまでに3000人以上の転職・再就職をサポートしてきた。著書に「定年前後の『やってはいけない』」など。