上原浩治「中継ぎピッチャーズバイブル」

 レッドソックスの上原浩治投手(40)は前半戦を2勝3敗22セーブ、防御率2・45で終えた。6月24日(同25日)から現在10試合連続無失点中。10回を投げて被安打2、奪三振11、与四球0だ。8セーブをマークしている。メジャーでもトップクラスと評される制球力、ボールのキレが復活し、本来の姿に戻ったといっていいだろう。守護神の目にストライクゾーンはどう映っているのか。

 テレビの野球中継では長方形のストライクゾーンが画面上に登場する。投手がどのコースに、どの球種を投げたか視聴者に把握してもらうためだ。仮に上原が打者を仕留めるのに8球要した場合、全球のコース、球種、球速を正確に記憶することは簡単ではない。画面のストライクゾーンに表示されれば一目瞭然だ。

 メジャーでも屈指の制球力を誇る上原はストライクゾーンをどのように見ているのか。答えは、実にシンプルだった。

「ボクは4分割だけ。それだけです」

 上原ほどの投手なら、もっと細かい狙いを持っているのかと思いきや、そうではなかった。ノートに描いた長方形のストライクゾーン。そこにペンで十字を入れて4分割にすると、上原は「そうやね」とうなずき、こう続けた。

「結局、高め、低め、内、外って考えたら4つしかない。だから4分割」。ど真ん中に円を入れてみると「そこは練習しないですからね、ほとんど」と首を振った。

 高め、中、低め、内角、真ん中、外角とテレビ番組などでおなじみのストライクゾーンを9分割したパネルにボールを当てて落とすゲームの影響もあるのかもしれないが9分割の印象が強い。上原に「スカウティングリポートなども含め、9分割という見方をしたことはないのか?」と聞いたところ、「9分割って、それは説明する時に使っているだけ。別にそんなんはね、投手で9分割で見て投げている人ってそういないと思う。だって、キャッチャーが構えるのは4分割でしょ。高め、低め、内、外。その4つ。どう9分割になるのかが分からない」。

 投手からみたストライクゾーンの活用方法のひとつとして挙げられるのが、相手打者の得意とするコース、苦手なコースなどをグラフ化したデータ、リポートだ。メジャーでは球団によって差異はあるだろうが、対戦カードごとにファイル化されたリポートが各投手に配布されることが多い。たとえば“低めはボール気味でも打ってくる傾向にある”“追い込んでからスライダーを外角低めに投げればかなりの確率で有効だ”“初球から振ってくる打者かどうか”など、マル秘情報満載だという。

 ストライクゾーンの高さは打者の身長によって変わるものの、43・18センチの幅は変わらない。投手が捕手の要求通りに投げられるかどうかの保証はなく、結果的に逆球で良かったということもある。しかもストライク、ボールを判定するのは球審。点差、走者の状況、ボールカウントによってアプローチ、心理状態が変化する。リードして2ストライクに追い込んでいるなど投手有利の場面では投げられるコースが、逆の状況で投げきれないこともある。それは打者も同じだ。

 上原はコントロールの基本とも言われている外角低めに投げることについてはどう考えているのか。「(意識は)今でも、もちろんありますよ」というものの、持論はここからだ。「別にそこにこだわる必要はないですよ。ストライクを取ればいいので。ただ、狙ってはいますよ。でも10球狙って(10球)投げられるかというと投げられない。それに今はアウトローでもホームランを打てる時代やし、そう簡単にそこばっかりというわけにはいかないですから。だからストライクをキチンと取ればいいんですよ。ど真ん中でもストライクはストライク。時と場合によりますよ、そんなん」

 大阪府寝屋川市で育った上原は地元だけではなく、関西圏で10年以上にわたって「上原浩治杯争奪軟式野球大会」を主催して少年野球のサポートも続けている。だからこそ、少年たちへのアドバイスも忘れない。

「少年野球では、まずはストライクを投げること。いきなりアウトローを投げろってのは無理ですよ。まずはど真ん中を投げて、ストライクを投げるってことを大事にしてほしい」