大相撲の冬巡業中の4日に付け人の三段目・貴大将(23)に暴力を振るった幕内貴ノ岩(28=千賀ノ浦)が現役引退する意向を固めたことが分かった。7日にも発表する。日本相撲協会は5日に貴ノ岩、6日には貴大将に対して事情聴取を行い、事実関係を確認して今後の処分を検討する方針だったが、貴ノ岩自身が先に責任を取ることを決断した。昨年10月末に発生した暴力事件の加害者だった横綱日馬富士、貴ノ岩を守り続けた師匠の貴乃花親方、そして被害者から加害者に立場を変えた貴ノ岩。世間を騒がせた“全員”が角界を去ることになった。

 愚行の代償はあまりも大きかった。貴ノ岩は自らが引き起こした暴力問題の重大性を受け止め、6日夜までに引退の意思を固めた。すでに周囲の関係者には伝えているようで、7日にも正式に発表するという。

 もはや逃げ場は完全になくなっていた。日本相撲協会は6日、今回の暴行の被害者である貴大将に対し、午後1時すぎから東京・両国国技館で事情聴取を行った。危機管理部長の鏡山親方(60=元関脇多賀竜)と同委員長の高野利雄外部理事(元名古屋高検検事長)による約1時間の聴取後、報道陣の取材に応じた貴大将は「(貴ノ岩の説明と)全部一緒です」と、前日5日に貴ノ岩が話した内容と同じだったことを明かした。顔に目立った外傷はなく、ケガの状態を問われると「大丈夫です」と答えていた。

 協会は事実関係を整理した上で貴ノ岩に対する正式な処分を検討する方針だった。力士による暴力の直近の例では3月場所で、貴ノ岩の弟弟子で当時十両だった幕下貴公俊(21)が付け人に暴力を振るい「1場所出場停止」の処分を受けた。ただ、この時は「若い力士で将来がある」という点も考慮された。当時の貴公俊は新十両で、関取としての第一歩を踏み出したばかり。

 これに対して貴ノ岩は関取を39場所も務めており、年齢的に見ても「若手」ではない。指導的な役割を担う立場だけに、情状酌量の余地はないとされていた。協会幹部への心象も悪く、昨年の秋巡業で起きた元横綱日馬富士(34)による貴ノ岩への傷害事件を契機に、協会が取り組んできた「暴力の根絶」を見事に裏切った。10月25日には「暴力決別宣言」を発表した協会としても、完全に看板に泥を塗られた格好。「新生・日本相撲協会」として再出発した矢先、暴力事案の“第1号”がまさか貴ノ岩になるとは…。協会の面目は丸つぶれとなった。

 芝田山広報部長(56=元横綱大乃国)は「八角理事長(55=元横綱北勝海)をはじめ、このこと(暴力根絶)に立ち向かっている人たちの気持ちを踏みにじった。ましてや被害者である当事者が加害者に回るのは、もってのほか」と怒りをにじませただけに「2場所以上の出場停止」処分は必至だった。暴力行為の“常習性”も指摘されており(本紙昨報)、親方衆の間からは「やめてもらうしかない」という声も上がっていた。

 6日から東京・台東区にある千賀ノ浦部屋で謹慎生活を開始していた貴ノ岩だったが、正式な処分を待つ前に自ら責任を取ることを決めた。貴ノ岩に暴力を振るった日馬富士は協会からの勧告を受ける形で現役引退に追い込まれ、当時から貴ノ岩を守り続けた元貴乃花親方の花田光司氏(46=元横綱)も協会幹部との確執などから退職。そして「元被害者」の貴ノ岩は「加害者」に変わり、引退を決断。相撲協会を窮地に陥れ、世間を揺るがした当事者たちが角界から姿を消すという衝撃的な結末を迎えた。