輪島さんが本紙専属コメンテーターをされていた関係で当時、相撲担当だった自分も何度か食事をともにさせていただいた。

 その席で常に感じたのは輪島さんの相撲への深い愛だった。事情があり角界を追われたが、育ててくれた恩返しをしたいという気持ちは変わらなかった。その一つの表れが白鵬への愛情だった。駆け出しのころから食事に連れて行くなどかわいがり、白鵬も「日本の父」として慕っていた。白鵬との食事中も相撲談議に熱が入ると、身ぶり手ぶりを交えて相撲の指導をしていた姿を思い出す。

 2007年5月の夏場所で白鵬が全勝優勝で横綱に昇進すると「自分にとっても白鵬関は息子のようなもの。2場所連続優勝、しかも全勝で横綱に上がるとはオレにとっても感慨深いよ」と自分のことのように喜んだ。その後も白鵬との親交は続き、白鵬のモンゴル帰国の際には同行して相撲教室を行ったほか、毎年1月には輪島さんの故郷である石川・七尾市でトークショーも行うほどだった。

 白鵬も本場所で輪島さんの黄金のまわしを着用するなど、その尊敬ぶりを隠さなかった。異国で頑張る白鵬にとって、輪島さんの存在はまさに父親そのもの。現在、優勝41回の大横綱の成長過程で輪島さんが果たした功績は大きいと思う。

 17年には奈良・天理高野球部の本当の息子、輪島大地くんが甲子園出場を果たし、投手としてマウンドに立った。闘病中の輪島さんにとって、孝行息子たちの存在が大きな心の支えになったと信じたい。(元大相撲担当・坂庭健二)