惨敗の中にも希望あり。フィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナル(イタリア・トリノ)で2位に終わった羽生結弦(25=ANA)がギラギラと逆襲に燃えている。大会前から「勝つことに意味がある」と強く意識していたライバルのネーサン・チェン(20=米国)に43・87点の大差で優勝を奪われたが、試合後は意気消沈どころか「今に見とけ」と驚くほどポジティブだった。この言葉に隠された自信はどこから来るのか、検証した。

 チェンとの直接対決は全8戦、4勝4敗と完全な五分だ。しかし、直近2戦は昨年3月の世界選手権、今回と連敗しており、フリー当日(7日)に25歳となった羽生に対し、チェンはまだ20歳。年齢的ピークや伸びしろを考えても劣勢なのは明らかだ。

 だが常に想像を超えるのが羽生という男。惨敗直後に「今に見とけよって感じ」と早くもリベンジを誓ったかと思えば、40点以上の大差にも「点数ほど大きな差はない」「早く練習がしたい」と前向きだった。さらに「勝負には負けているけど、自分の中の勝負にはある程度、勝てた」と自信をみなぎらせている。

 では、逆転はあるのだろうか。元国際審判員の杉田秀男氏(84)は「フリーはハードな構成でしたが、これはテストケースで“トライ”の意味合いが強い。時間がたてば十分に巻き返せる」と太鼓判を押す。

 今回、羽生は演技後に立ち上がれないほどジャンプの基礎点を限界まで上げる構成で挑んだが、ショートプログラム(SP)で12・95点、フリーで30・92点とチェンに大差をつけられた。4回転トーループからの連続ジャンプにミスが出た上に、フリー後半に組み込んだトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)の連続ジャンプは1回転の単発となった。この原因を杉田氏はこう説明する。

「彼が万全な時はジャンプのランディングがクリーンだが、今回のフリー後半はランディングの際に前のめりになったり、ポジションがいまひとつ。そのために跳ぶ前と空中での姿勢、降りた時の位置などジャンプの質が低下し、GOE(出来栄え点)や演技構成点にまで影響を及ぼした。彼の技術は今さら言うまでもないので、あとは時間ですよ。見た目は43点と大きな差だけど、この構成を磨けば大丈夫です」

 さらに公式練習中に挑戦した人類初のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)が完成すれば、夢は膨らむ。実際に、羽生は世界選手権(来年3月、モントリオール)へ向けて4回転半を演目に入れるために「頑張ります。そのつもりで」と意欲を示す。「この構成で滑り込みができて、またつらい練習ができると思うとワクワク」と胸を躍らせているのは、こういった裏付けがあるのだ。

 勝負事に「たら・れば」はナンセンスとはいえ、羽生はいくつもの「たら・れば」を実現させてきた。今は遠くにある理想郷に、一歩一歩近づいていくようだ。