「厚底シューズ問題」はどこへ向かうのか。世界各地で好タイムを連発するナイキ社の「ズームXヴェイパーフライネクスト%」が使用禁止から一転、条件付きで許可される見通しとなった。そこで騒動以来、公の場で多くを語らなかったシドニー五輪女子マラソン金メダリストで日本オリンピック委員会(JOC)の高橋尚子理事(47)を本紙が直撃。Qちゃんは2つの持論とアスリートへの熱い思いを激白した。

 厚底シューズ論争が勃発したのは今月中旬。複数の英メディアが「世界陸連に禁止される可能性」を報じ、愛用する選手を巻き込む騒動となった。だが、ここへきて急展開。29日に英紙ガーディアンは世界陸連が全面的な禁止を見送る方針と伝えた。

 一連の騒動について、高橋理事を直撃すると「正直、なかなかしゃべれない部分がありました。私自身はアシックスがスポンサーについていますし、それは増田(明美)さん、有森(裕子)さん、千葉(真子)さんも一緒」と胸の内を話せなかった事情を吐露。「ナイキの商品について、いいか悪いか?という話ではなくて」と前置きした上で厚底シューズ問題への思いを語ってくれた。

「目の前に東京五輪が迫り、世界中の人たちが正念場を迎えている今になって規制するのは、非常に難しいと思っていました。選手はあの靴を履けばすぐに速く走れるのではない。走り方を変える必要もあるし、筋肉の使い方も全然違う。それを慣らし、自分のものにするには時間を要するので、早く決断して選手に伝えてほしいと願ってきました」

 世界陸連は31日にも正式に全面的な禁止の見送りを発表する見通しだが、高橋理事は「五輪への準備という視点では十分に調整可能だと思います」と持論を述べた。同紙によれば、東京五輪終了までシューズへの新技術導入を認めないこと、厚底の優位性を調査することなどが発表の内容だというが、高橋理事は「規定の明確化」を強く主張する。

「何がダメで、何がOKなのか。4センチの厚さがダメなのか、クッションやカーボンがいけないのか? 例えば反発係数を数値で示して、それを試合前に測れる装置をつくるとか。今後、新しいものが出てくるたびに議論していたら堂々巡り。規制する以上は基準を数値化し、レギュレーションをつくることが大切だと思います」

 日本女子陸上初の五輪金メダルを獲得し、国民栄誉賞を受賞した高橋理事は騒動を総括すべく、最後にこう語った。

「選手は必死に練習し、記録はグングン伸びています。でも同じようにメーカーも技術を進化させて今まで培ったものを五輪へぶつけていきます。テクノロジーの発達は陸上界だけでなく、社会でも広く貢献できる。そうやって切磋琢磨していくことは必要だと思います」

 選手として頂点を極めたからこそたどり着いた境地。まさに“金の格言”ではないか。