日本人の「病気でも出勤」の精神が新型コロナウイルスを拡散させかねない。国内では16日も新たな感染者が発表され、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」を含めると患者は414人に。感染経路がたどりにくいケースも増え、水際対策から市中感染の防止へと転換が迫られている。そんな中、識者からは「日本人の“社畜根性”が命取りになる」との声が上がり、日本政府の対応が急務だ。

 15日に感染が確認された都内の40代男性会社員が症状がありながら出張していた事実は衝撃だった。2日にせきの症状、5日に発熱し病院へ。10日に別の病院に行き、直後に新幹線で愛知県に出張。12日になって都内の病院に入院後、陽性が判明した。

 これとは別に東京都は16日に新たな感染者5人を発表。この40代会社員と一緒に出張し、研修や食事などで接していた30代の男性会社員が含まれていた。発症後の9日には関東近県での仕事で公共交通機関を利用した。

 13日に陽性と分かった千葉県の20代会社員の場合、2日に発熱後、感染判明まで2日間出勤し、電車を利用。和歌山県の50代男性医師は1月31日に発熱し、解熱剤を飲んで3日間出勤。13日に感染が確認された。横浜市の30代救急隊員は10日にクルーズ船から感染者を搬送し、同日夜に発熱。発熱後も救急業務を行った。

“多少の発熱では休まない”勤勉さは日本人の勤労文化にはみられるが、これからはそうも言っていられない。ネットユーザーらが「社畜文化がコロナを全国に散らしていく」「コロナの感染力よりも社会の体制が感染拡大の原因」と指摘するのも的外れではないのだ。社畜とは日本のサラリーマンを表す造語で、会社のために家畜のように従順に働く意味が込められている。

 コラムニストで「大人力検定」で知られる石原壮一郎氏は「『インフルエンザくらいで休むな』なんていう上司や会社もあるほど、日本では“社畜ウイルス”が昔から蔓延しています」と指摘し、こう語る。

「原因は日本人が空気を読み過ぎること。発熱で休んだら上司から『あいつはダメだ』、同僚からは『みんな休んでないのに』と陰口を言われるんじゃないかと、ありもしない批判の声を想像して休めない。もう一つは“頑張ってるアピール”。熱があるのに『会社のために無理して来ました』というのが古い世代にウケがよかったりする」

 だが、今後は転換期とすべきだろう。「これまでは『会社のために出社』でしたが、新型コロナでは『会社のため、自分のためにも休む』のが必要。自分のせいで会社内にウイルスが蔓延したら会社の存亡の危機です。これを機会に社畜ウイルスも根絶した方がいい」と石原氏。

 もちろん、政府の怠慢も理由にある。厚労省はホームページで企業向けのQ&Aを公開。新型コロナで労働者を休ませる場合「欠勤中の賃金の取り扱いについては労使で十分に話し合っていただき…」と丸投げ。発熱した社員が自主的に休む場合は「通常の病欠と同様」とし、会社指示で休ませる場合は「休業手当を支払うべし」としている。傷病手当金の支給はあり得るが、国として休業補償はない。金銭面のフォローがない→仕事を休めない→ウイルス蔓延となりかねないのだ。

 政府の専門家会議の脇田隆字座長(国立感染症研究所所長)は16日、感染の広がりを防ぐため、在宅勤務や時差出勤を推奨するとともに「不要不急の集まりを避けてもらいたい」と呼び掛けたが、政府には次の対応が迫られている。