知人女性への暴力などで昨年10月にJ1仙台との契約を解除され、2月に韓国2部・忠南牙山に加入したMF道渕諒平(26)の存在が、日韓両国に新たな遺恨を生み出そうとしている。異国の地で再出発した道渕だが、韓国の複数の市民団体が同クラブでプレーすることは倫理的に問題があるとして抗議運動を拡大。さらにはそれに乗じてか、「濡れ衣」ともいえる批判を持ち出される事態にまで発展しているのだ。


 道渕は仙台から解雇された後、現役続行を模索し、忠南牙山に入団。今季2得点を挙げるなど活躍しているが、3月に入ってホームゲームに出場したことで事態は急変した。現地で複数の市民団体が「犯罪歴のある選手の加入には問題がある」として解雇を求める抗議活動を開始。その様子が韓国全土で報じられ物議を醸している。

 こうした動きに対してクラブのイ・ウンジョン社長は「倫理的な部分を見落としていた。市民クラブの価値に反する加入だった」と謝罪しつつも「選手の放出は、法的な問題や残りの年俸を含む違約金を支払わなければならない問題がある。クラブの劣悪な財政条件を考慮すると放出は非常に難しい」。契約解除には違約金など多額の費用が発生するため否定した。

 しかし問題は収束するどころか、さらに拡大の一途だ。韓国メディア「デーリートゥルース」によると、クラブの本拠地である忠清南道の議会で「堕落球団に対する血税でのサポートをやめるべきだ」との要求が出された。

 市民クラブである忠南牙山に対しては忠清南道と牙山市から、それぞれ5年間で100億ウォン(約10億円)が投入されており、正義党のイ・ソニョン議員がこれを問題視。「牙山FCは地域市民の反発があるのに(道渕)諒平選手の放出を考えていない。こんな球団に大金を支援するのは疑問だ。市民球団として望ましくない」と議会で訴えたのだ。

 これに対してヤン・スンジョ知事は「社会的に容認できない選手を獲得したのは明らかに問題がある。もし(暴行問題などを)知りながら(契約を)強行していたなら、明らかに誤った処置」と指摘した上で支援の中止について「検討の必要がある」と応じた。

 さらに騒動は人権問題にまで飛び火した。同国メディア「OSEN」は、牙山地域の中学校の保護者団体も道渕の解雇を求める様子を報じ、同団体は声明の中で「(道渕は)性的至上主義、反人権的教育をもたらす」と糾弾した上で「性犯罪前歴がある選手が試合をしていいものではない。性犯罪者、諒平を解雇しろ!」とののしったという。

 しかし、道渕が性犯罪に関与した事実は明らかになっていない。これは完全に事実を歪曲した〝冤罪〟で、名誉棄損にあたる可能性がある。まるで事実かのように報道されれば、世界規模で道渕を獲得するクラブはなくなる。サッカー選手としてのキャリアが終わってしまう可能性もあり、不当な非難は許されないだろう。

 3月25日の日韓戦(横浜)でも両国の世論を巻き込んで対立が鮮明化したばかり。過去の愚行は正当化されないとはいえ、日本人選手を巡ってまたもや両国の火種が生まれてしまった――。


【過去に2度の女性暴行事件】


 道渕はこれまで2度にわたって知人女性への暴行事件を起こしている。

 2017年の大学卒業後、当時J1だった甲府に入団してデビューするも、同年7月に江東区で知人女性へ暴行を働き、警視庁に逮捕された。その後処分保留で釈放されたものの、クラブにより同年シーズンの出場停止処分が下された。

 19年に移籍した仙台でリーグ戦25試合5ゴールとブレーク。日本代表に推す声も上がるなど、将来を嘱望された。しかし20年10月に週刊誌が交際女性への暴行で9月に宮城県警により逮捕されたと報道。クラブは本人に事実関係を確認した上で同20日付で契約を解除した。

 その後、忠南牙山に加入。同クラブは「社会的なスキャンダルを起こしたことは否定できないが、面談を通じて選手の変化の意志を感じ、契約を結んだ」と説明していた。