【GⅠ江戸川大賞・開設60周年記念:注目レーサー】13日に開幕するボートレース江戸川GⅠ開設60周年記念「江戸川大賞」。本紙は地元の中野次郎(34=東京)に注目。直前の表情をたっぷりお届けする。

 公正安全。レース直前の乗艇時、中野は必ずこの言葉を口に出す。「まず安全なレースをするのが第一」というポリシーの彼がデビュー当初から一貫して続けてきた儀式だ。しかし、今年からこのフレーズの後に新たな言葉を付け加えるようになった。

「昔から父親に『もっと握れ!』って言われてたんです。分かってはいたんですが、どうしても落としグセがあって…。だから今年からレース前に『スピードターン』って言葉を繰り返し言うようにしたんです。そうしたら体の反応が速くなり、レースで握れるようになりました」

 結果はすぐに表れた。3月の平和島GⅠダイヤモンドカップで優出2着、同月の多摩川60周年記念では4年ぶりにGⅠ優勝を達成した。明らかに以前よりアグレッシブなレースが目立ってきた。

 もともと才能はピカ一だった。天性のハンドルテクニックに加え、神から授かった甘いマスク。若手の登竜門でもあるGⅠ新鋭王座決定戦(06年・からつ)を制覇し、将来の東京エースとして大きな期待をかけられた。しかし、安定した成績を残す一方で、決定力のなさは否めなかった。これまでSGに35大会出場して優勝ゼロ、優出も1度しかない。「もっとお前は伸びると思ったのに」「キミのレースには魅力がない」。そんな厳しい声も中野の耳に入ってきた。ハイレベルの技術があるのに、どこか物足りない。それが何か?に最近、気付いたという。

「精神状態です。これまでボクはそこをもっと鍛えなければいけなかった。昔は純粋に勝つことだけを考えてきたけど、いつからか賞金を気にしたり、邪念が生じるようになった。今必要なのはただひたすらレースに勝つ!という集中力。邪念がなくなれば、すべてがいい方向にいくと思うんです」

 13年4月に結婚した妻・佐々木梨絵さんとの間に昨年12月、待望の第1子が誕生。さらに梨絵さんは今年4月の大阪市議選で初当選し、縁起のいいことが続いた。

「子供の存在はホントに大きいです。それに最近は妻を応援してくださる方がボクのレースに興味を持ってくれている。全部、力になっています」

 現在は大阪・住之江に居を構えるが、魂は東京に置いてある。地元・江戸川では1年前の59周年大会で「熱くなって」非常識なFを切って即日帰郷したが、今の中野には「平常心」と「スピードターン」が加わった。

 ジローファンはずっとヤキモキし、歯がゆい思いをしてきただろう。だがもう大丈夫! 待ちに待った「本格化」がすぐそこまできている。