覆面は男のロマンである。プロレス史上、数えきれないほどのマスクマンが登場したが、最も謎とミステリーに包まれた最大の怪奇覆面男がザ・マミーだ。

 ミイラのごとく全身を包帯で巻き、攻撃を受ければ体から白煙が舞い上がる。1962年に初登場するや一気に全米で話題となり、翌年3月にはNWA世界ヘビー級王者の“鉄人”ことルー・テーズにも初挑戦した。鉄人も大変だったろう。

 初来日は64年4月3日の第6回ワールド大リーグ戦。同年3月29日付の本紙では、米国通信員が来日を控えたザ・マミーの謎に鋭いメスを入れている。

「ミイラがその怪奇な姿を初めて登場させたのは1962年初頭、テキサス州ヒューストン。全身を包んだ包帯はねずみ色に変色。包帯で顔を隠し、漆黒の長髪は脂っけがなくてパサパサ。かい間のぞく目は死んだ魚のようにドロンとしている。相手と組み合うとパッとほこりが舞い上がる。すぐさま相手に恐怖のカロテッドクラッチ(けい動脈絞め)を決めて失神させてしまった」

 ちょっとやり過ぎの感も強いが本紙の追究は続く。「近くテキサス州立大学の人類学教授がマミーの正体について結果を発表する」「実は南米で脱獄した死刑囚が時効になるのを待ち渡米した」「心霊術でよみがえったインカのミイラが正体」など…。

 さらには「62年秋テキサスでマリオ・マリノと戦った際、覆面をはがされると『俺の名はベンジー・ラミレス。ガテマラから来た』と語り、姿を消した。約1年後にロサンゼルスに再登場。ガテマラでピストルで撃たれて奇跡的に一命をとりとめて以来、絶対に死なないと確信してミイラに再変身した」とも報じている。もう何でもありだ…。

 これだけ奇々怪々な情報が流れたのだから日本中のファンの期待は高まった。11月2日に来日すると「誰も俺を殺すことはできない。皆殺しだ」と怪気炎を上げた。当然、地方巡業でも白煙を上げる怪奇現象で大人気を集めミイラブームを呼んだものの、肝心のリーグ戦は0勝5敗とトホホな結果に終わった。5月シリーズまで残留後、二度と来日することはなかったが、強烈なインパクトだけはプロレス史に永遠に刻まれる。