東京都武蔵野市で、外国籍の住民も住民投票に参加できるようにする住民投票条例案が21日、市議会で否決された。その舞台裏では、市議たちにさまざまなプレッシャーがかけられていたという。この条例案をめぐっては反対のため街宣車が市内を走り回り、賛成派も〝ファクス攻勢〟で応戦。重圧で涙ぐむ市議もいたほどだった――。

 日本人と同じ条件で外国籍の人に投票権を認める市の住民投票条例案を松下玲子市長が11月、議会へ提出すると、外国人参政権や安全保障問題と結び付けた批判など、インターネット上を含め議論を呼んだ。

 全国的な注目度の高さを受けて、21日に開かれた市議会の傍聴席はほとんど埋まった。報道陣も殺到し、用意された記者席では足らず、立ち見が出たほどだ。

 注目の採決は賛成11票、反対14票で否決。同条例案を推進していた松下氏は「否決という結果になりました。重く受け止めたい」と報道陣に話す一方で、「さらに検討を進める」と再提案の意志を示した。

 また松下氏は、反対派によるヘイトスピーチにも言及。「ヘイトスピーチとも取れることがたびたび起こったことは残念だ」と指摘し、「私が見聞きした内容を言語化するのははばかられる。『外国人の方は自分の国に帰りなさい』という内容のものがあった」と明かした。

 反対派の過激さばかりが取り上げられるが、賛成派も〝ファクス攻勢〟を展開していた。作家・志茂田景樹氏の息子である下田大気武蔵野市議は「どの議員もそうだと思うが、ファクス、メール、電話が何百件とありました。会派室にあったロール式のファクスは、紙がなくなったままです」と振り返った。

 下田氏は事前に反対と表明していた。

「賛成派がツイッターでキャンペーンを呼び掛けたことで一気に賛成派からのファクスやメールが増えました。脅しはなかったけど、『差別主義者だ』とか『次の選挙は票を減らす』とかはありました」

 それでも下田氏は反対を貫いた。

「やはり市民の理解が得られていないのが一番大きい。混乱の中で進める意義が見いだせなかった。外国人への投票権付与は置いておいて、まずはケンケンガクガクの議論が必要。(住民投票する)案件があるわけじゃないので、そんなに急ぐことはない。再来年の4月に市議選があるのでそこで争点になるのではないか」

 下田氏以上に注目されたのが、キャスティングボートを握っていた会派「ワクワクはたらく」の2人だ。この日の本会議で同会派の本多夏帆市議が涙声で反対を表明。事実上、この瞬間に否決が決まった。

 下田氏は「彼ら2人にかかっていたので、僕以上の圧というか、いろんなところから連絡があったんじゃないですか。ここ1週間は相当なプレッシャーがあったと思いますよ」と思いやった。

 政治的に賛否が分かれる案件ではファクス攻勢が今でも行われている。政治家目線ではどう映っているのか?

「ファクスはあくまで参考ですね。議会の議論を聞いて、あとは市民の声を聞きつつ最終判断する。ただ精神的なプレッシャーになる部分もある」

 舞台裏はまさに〝地獄〟だったようだ。