中国でメディアを管理する国家ラジオテレビ総局は今月上旬、「低俗で下品な」娯楽作品を排除するとして、アイドル育成番組などの放送を禁じる通知を出した。「道徳の欠落」した芸能人を取り締まり、共産党や国を愛する人物を重視するよう指示。業界への規制や思想統制を強める方針を示している。さらに中性的なイケメン男性アイドルについてもメディア出演を制限すると発表。中国のアイドル界は、いったいどうなっているのか。 

通知は全国の地方当局に向けて出された。オーディション番組の投票システムを厳しく管理し、人気ランキングなどでファンの消費をあおる行為を禁じるよう要求。番組出演者を選ぶ際は「政治素養」をチェックし、党や国から「心が離れている」人物は起用しないよう指示した。

 また「女っぽい男性などいびつな美的センスの根絶」も要請。「中華の優秀な伝統文化や社会主義の先進的文化」を盛り上げるよう促している。
 最近、習近平指導部が人気俳優を脱税で摘発するなど芸能人への引き締めを強めている中、さらに中性的男性アイドル=「小鮮肉(シャオシェンロウ)」を排除しようというわけだ。小は若いこと、鮮はスキャンダルがないこと、肉は細マッチョ的な意味だという。日本ではジャニーズ事務所のアイドルが当てはまるだろうか。

 今年1月に国政助言機関の中国人民政治協商会議が「男性の女性化を防ぐ法案」をつくることを提案。日本の文部科学省にあたる中国教育部は2月、文書で「学校の体育を改革し、学生の男らしさの育成に注力する」と回答していた。

 中国の現状について、中国人ジャーナリストの周来友氏はこう語る。

「中性的な男性アイドルのメディアへの出演を制限していくという発表がありました。アイドルの存在が中国の芸能界で大きくなり、ドル箱産業となっている中での突然の発表に、ネットユーザーなどからも個人の個性を国家が管理することに大きな不満の声も寄せられています」

 中国では15年ほど前から、韓国のK―POP文化が流入し、若者を中心に大人気となっている。中国の若者が韓国のアイドルオーディション番組などに参加し、EXOなど中韓混合アイドルグループも誕生してきた。

 K―POPアイドルの中でも、細マッチョで中性的なメークの美少年タイプが売れている。

 周氏は「K―POPが中国に入ってきたことで、中国でも同様のアイドル文化が定着していったのです。中性的なイケメンアイドルが人気となっていますが、政府としては『女っぽい男性』像は男性を弱々しくするものであると考えているのです」と指摘する。

 前述の中国人民政治協商会議常任委員会のメンバーは「小鮮肉」について「中国の多くの若者が『弱く、劣っていて、臆病』なイメージを目指している。若い男性の間には『女性的な気質』の傾向がある」と指摘していた。

 周氏は「“男らしさ”“女らしさ”という言葉は、日本では個人の個性を否定するものとして考えられていますが、中国では時代に逆行するかのように政府が肯定的に推し進めているのです。現在、日本の男性アイドルが大きな市場となる中国進出に乗り出していますが、政府による政策は、中国進出にも大きな影響を与えそうです」と話す。

 現在、中国進出に積極的なジャニーズも苦戦するかもしれない。

 それにしても、時代に逆行する思想を徹底させようという政府に対し、中国のSNSでは「女性は蔑称ですか?」「弱さを女性と結びつけること自体がステレオタイプ」「軍隊の人じゃないとアイドルになれなくなるの?」などと批判の声が上がっている。