政府は9日、新型コロナウイルス感染症対策本部を開き、緊急事態宣言発令中の21都道府県のうち宮城と岡山を除く19都道府県の期限を12日から30日まで延長すると決定した。新型コロナを巡っては、南米コロンビアで流行中のミュー株が、ワクチン効果を7分の1以下に抑制するとの研究結果が明らかに…。相次ぐ変異株の脅威に先進各国が3回目のブースター接種に踏み切ろうとする中、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が「待った!」をかける事態になっている。

 東京都は9日、新型コロナウイルスの感染者が新たに1675人報告されたと発表した。一時は都内だけで1日に5000人以上の新規感染者が出るなどした新型コロナだが、最近は一気に感染者数が減って一部ではピークアウトしたと言われる状態にまで落ち着いてきた。

 そんな中、変異株のひとつであるミュー株が、ワクチン効果を7分の1以下に抑制するとの研究結果を東大や東海大などの研究チームが発表して騒然となっている。

 医療ガバナンス研究所の上昌広氏はミュー株について「臨床データではない研究結果だけでは何とも言えない」と前置きした上でこう話す。

「ミュー株が高い致死率と強い感染力を持っていたとしても、そう簡単に著しい変異をしたとは考えにくく、ワクチン接種していればデルタ株のようにブレークスルー感染しても死を防げる可能性は高い。重要なのはワクチン接種。ミュー株が流行しているコロンビアは、国民のワクチン接種完了率が約30%と低いことから大きな流行につながったと考えられる」

 一にも二にもワクチン接種が大事ということだが、すでに接種率が高い先進国では3回目のブースター接種も実施間近となっている。世界に先駆けて8月1日からブースター接種を開始したイスラエルでは、抗体価が約5~10倍に跳ね上がったという結果が出ている。

 ところが、WHOのテドロス事務局長が8日、ワクチンの世界的枯渇を理由に3回目のブースター接種に「待った」をかけた。テドロス氏は年内に世界人口の40%が接種完了することを目標に掲げており、先進国で3回目に接種するワクチンを途上国に“譲渡”しろというわけだ。

 上氏は「誤解を生む発言だ。テドロス氏は途上国の票で事務局長の地位に就いた人。途上国の代弁をするのは大事だが、今、先進国で使われているファイザーやモデルナのmRNAワクチンは超低温管理が必須で、これを保管施設が乏しい途上国に分配せよとして、ブースター接種を止めるのはおかしな話。むしろ抗体価が跳ね上がるという臨床データがあるのだから、先進国ではブースター接種すべきだ」と指摘する。

 またもやテドロス氏が“トンチンカン発言”をしたというわけだ。とはいえ、人道的観点からもウイルス学の常識からも、途上国を放置していいわけではない。
「人がウイルスに感染すると体内で複製が作られるが、変異はこの過程で起こる。つまり、感染者が増え続けるほど変異のリスクは高まるので、途上国対策も同時進行で行わなければ変異株とのイタチごっこが続いてしまう。途上国対策をすることは先進国の利益にもつながる」と上氏。

 途上国には比較的管理しやすいジョンソン・エンド・ジョンソンやノババックス、アストラゼネカのワクチンを供給して感染拡大を止めるべきとした。

 コロナ禍が小康状態になったかに見える日本だが、今後、リバウンドがありそうだ。上氏は「2回接種を完了した人が国民の約50%とまだ少なく、3回目の接種以前の問題。冬には再び大きな流行となる可能性が高いので、早く2回接種を完了させるべき」と話す。

 ワクチン効果を抑制するミュー株だけでなく、強い感染力のデルタ株が猛威を振るう。さらに9日には国内で初めてイータ株の感染者が判明。さらにカッパ株も出ている。