〝五輪アレルギー〟が加速しそうだ。東京五輪開幕が2か月後に迫る中、国民感情は開催とは真逆の方向を向いている。大会組織委員会や国際オリンピック委員会(IOC)は新型コロナウイルス対策に自信を見せる一方で、世論調査では「開催反対」が多数派を占めた。スポーツマネジメントの専門家は、こうした現状が「〝負のレガシー〟を生み出しかねない」と危機感を募らせている。

 開催への機運が一向に高まらない。組織委やIOCはコロナ対策などをまとめた「プレーブック」を公表して安心安全な大会実現に自信を持っているが、不安を募らせる国民は多く〝お祭りムード〟とは程遠い。開催都市の東京都では、ワクチン大規模接種の予約がようやくスタート。ただし、初めは65歳以上かつ23区に住む人のみが対象で、そこから段階的に拡大されるためワクチン普及にはまだまだ時間を要する。

 その一方、IOCはワクチンを確保してアスリートの〝優先接種〟が可能となった。こうした現状の不満は数字にはっきり表れており、共同通信の世論調査では「中止」が59・7%。「観客を制限して開催」(12・6%)、「無観客で開催」(25・2%)を大きく上回った。

 五輪などスポーツイベントの社会、経済効果に詳しい東海大講師の押見大地氏(40)は「選手にとっては一生に一回かもしれないし、そこを目標に常人とはかけ離れた努力をしているので、彼らを純粋に応援したい」と大舞台に期待を寄せつつも「やっぱりスポーツはいろんなものにサポートされている。強化費も税金でまかなわれているし、スポーツは国民の同意みたいなものがないと生きていけない」と指摘する。

 特に国内のみならず世界中がコロナの脅威にさらされる中、押見氏は「五輪をやる意義はどこにあるのか、そこが感じられない。『コロナに打ち勝った』という話もあるが、勝っていない。日本はワクチンが普及してないわけで、そういった中で勝った証しにはなりづらい」と、主催者側の〝メッセージ性〟を疑問視。さらには理解を得られていない要因を「何のためにやるかが国民に届いていないから」と言い切った。

 こうした国民感情は企業も敏感に察知しているに違いない。押見氏は国内スポンサー全68社が延期に伴い契約を延長しながら、最近では五輪をイメージさせるCMや広告などを見かけなくなったことを挙げ「今は流しづらい。『何であんなに五輪をサポートしているんだ』と言われたら、やはり企業としてはマイナス。だから、もろ手を挙げて応援していると言いにくい空気感はある」と分析する。

 それでも反対の声を押し切って開催となれば、「中止派」のスポーツや五輪に対する〝アレルギー反応〟が一層強まってもおかしくない。押見氏は「スポーツ離れ」に強い危機感を示し「アスリートへのバッシングが起こったり、スポーツが一番損してしまうような、スポーツ嫌いが増えてしまうようなことが〝負のレガシー〟になってしまうのが怖い」と語った。

 実際、白血病を克服し東京五輪代表に決まった競泳女子の池江璃花子(20=ルネサンス)がSNS上で代表辞退や五輪の開催反対を求められるという〝被害〟に遭い、大きな問題になった。

 このような五輪に対する抵抗感は開催費用が膨れ上がり、商業化が前面に出ていることもつながっているという。「権利ビジネスは縛りが強く、一部の大企業が利益を得ても中小企業や国民レベルではその効果が感じにくい。今、五輪への逆風は強く、あり方が問われている状況。このようなメガスポーツイベントは曲がり角なのかもしれない」(押見氏)

 東京五輪の開催、中止にかかわらず、五輪を存続させるためには大幅な見直しが求められることになりそうだ。