中国・湖北省武漢市で最初に新型コロナウイルスの感染が報告されてから、8日で1年がたった。世界ではワクチンの接種が始まろうとしているが、日本では猛威が収まる気配はない。独自基準〝大阪モデル〟で、非常事態の赤信号を点灯させた大阪府の吉村洋文知事(45)は、コロナ禍においてそのリーダーシップが高く評価されるようになった一人だが、いまやその大阪が日本最大のコロナ感染拡大の地になっている。この1年のコロナ対策を巡る〝吉村劇場〟の功罪は――。


 吉村氏は7日、府が15日から運用を始める新型コロナ重症患者専用の医療施設を視察した。

「冬にコロナが流行し、重症病床が足りなくなった時に備えて造った」という施設は、全ての病床に人工呼吸器を備え付けているが、肝心の看護師が不足。これまでも全国知事会や関西広域連合に看護師の派遣を要請していたが、自衛隊の看護師にも派遣を要請したことを明かし「岸信夫防衛相に派遣をお願いした。実務レベルの協議もした。(菅義偉)総理の方から『できる限りの支援をする』と言っていただいているのはありがたい。派遣いただける自衛隊の皆さんに、心から感謝したい」と述べた。

 さらに、吉村氏は自身のツイッターに自衛隊幹部らと一緒に写った写真を投稿。「国民の生命、財産を守って下さいまして、ありがとうございます。違憲のそしりを受けることがあってはならない。保守を自称する国会議員は、命がけで憲法9条の改正をやってくれ。維新は命がけで都構想をやって大将の首をとられた。その迫力が全く感じられない」とつぶやいた。

 だが、ネット上では自衛隊と都構想を絡めたことに「都構想の何が命がけだ」「自衛隊さえも己のパフォーマンスに利用するのか?」と疑問の声が噴出。府政関係者もこう語る。

「自衛隊に要請せざるを得なくなったのも、人が足りなくなったから助けてって情けない話ですからね。自粛要請や赤信号の点灯のタイミングを見ても後手後手。健康医療部が医療スタッフ確保のため、赤信号点灯にとどまらず、重症病床の実質運用使用率を公表するなど真摯さが目立つ一方で、早期覚知が売りの大阪モデルを都構想のために改変しすぎて、いつまでたっても赤信号にならない〝ぽんこつ〟システムにした結果ですよ」

 コロナの第1波対応で株を上げたかに見える吉村氏だが、よくよく振り返ってみると、コロナ対策は迷走状態のレベルだ。

 創薬ベンチャー企業「アンジェス」が開発中のワクチンについては「9月には実用化できれるのではないか」「年内には10~20万人に接種できる」と豪語していたものの、結局は「来年の春から秋ごろになると聞いている」と軌道修正。イソジンなどのポビドンヨード成分入りのうがい薬をめぐっては、市場からうがい薬が品薄となり、医療現場を大混乱に陥れた。

 製薬会社関係者はこう話す。

「『アンジェス』はプレスの説明がうまいのですが、20年近くやっててグローバル治験をほとんど成功させていない。ワクチンは中小では生産も大変ですから、知事の発言通りにいくのか疑問に思っていた製薬関係者は多いと思いますよ」

 新型コロナという未知への対処とあって、知事の批判ばかりしても仕方がないという意見もある。しかし、市政関係者は「その意見はもちろんですが、問題なのは何か困ったことが起きると、人気取りに走りがちな吉村氏の姿勢。ワクチンもポビドンヨードも首長という立場を考えれば、飛びつくのではなく慎重に検討すべきところ。実際に、松井(一郎)市長は慎重な姿勢を崩さなかった。以前、学会関係者に指摘された眉毛の細さをすぐに直すとかは別に早くてもいいんですけど(笑い)」と指摘する。

 松井氏の後を受け、大阪維新の会代表も務めることになった吉村氏。もちろん大阪の感染拡大を劇的に終息させることができれば、信頼を取り戻し、〝大阪の顔〟どころか、将来の首相なんて声も再び出始めるかもしれないが、この1年の迷走ぶりや軽さを見る限り、厳しい冬を迎えることになりそうだ。