阪神は1日の中日戦(甲子園)に2―1で辛勝し、連敗は4でストップ。秋の反攻へ向け幸先良く9月最初のゲームを白星で飾った。不振に苦しんでいた主砲・大山悠輔内野手(26)の決勝適時打により接戦を競り勝った矢野阪神だが、チームの打撃状態はまだまだ良くないと本紙評論家の伊勢孝夫氏(76)は指摘。その上で、覇権奪回のためには佐藤輝明内野手(21)の一日も早いスタメン復帰が必要とした。

【新IDアナライザー 伊勢孝夫】この時期に入れば勝ち方はどうであろうと構わない。ただそれでもカウント3―0からバットを折りながら右前へ運んだ大山の6回の決勝打は、お世辞にも主軸打者のバッティングとは言い難いものだ。

 厳しい表現をすれば「運が良かった」だけ。二ゴロで終わっていた可能性も高い打ち方だっただけに、あの一打をもって大山は復調したとは言えないだろう。真っ芯で捉え、スタンドまで運ぶ確信がなければ、主軸打者は3―0からバットを振ってはいけない。「たまたま」は許されないのだ。このことは大山本人も理解しているのではないだろうか。

 3番・マルテ、4番・サンズ、5番・糸原のクリーンアップで臨んだこの日の一戦だが、長打力のない糸原を5番に置いても打線は機能しないだろう。次打者の大山がこれだけ調子が悪ければなおさらだ。私は一日も早く佐藤輝を5番打者としてスタメンに復帰させるべきだと思っている。彼は一試合を通して4打席、5打席に立たせてこその打者だ。

 この日の7回に代打として出場した佐藤輝は27打席連続無安打となる空振り三振で凡退。だが私は技術的な不調に陥っているようにはあまりみえない。問題は結果が出ないフラストレーション、メンタル面にあるのではないか。今の彼に必要なのは徹底的な過去の対戦データの洗い出しと復習作業だ。

 彼も春季キャンプから自身の「野球ノート」をつけていると聞く。今こそそれをひもとく時だ。各投手の配球、癖、自身が得た感覚をもとに思い切って狙いを定める。乱暴な言い方をすればヤマを張る。そうすれば彼ならすぐに長打は出るだろう。当たりが戻れば相手バッテリーも攻め方の変更を余儀なくされる。そして何よりも佐藤輝が打てば間違いなくチームに活気が出る。そうして阪神は前半戦を勝ち続けてきたのだ。ルーキーながら佐藤輝は阪神打線の最重要人物。彼が打たなければチームの優勝はないだろう。

 野村政権時のヤクルトで打撃コーチを務めていた当時は、すべての野手に野球ノートの作成を私は義務付けていた。古田も池山も広沢も、不振時には大いにそれが役だった。佐藤輝も「来た球を打てばいい」という時期はとうに卒業している。ここからは読みと思い切りの良さが大切になってくるだろう。