昭和かたぎの右腕が救世主に――。阪神は22日の中日戦(バンテリン)を2―0で勝利し、連敗を「3」で止めた。殊勲の働きを見せたのが、9勝目をあげた先発・秋山拓巳投手(30)だ。先発は「完投してナンボ」の高い理想に描く男は、夏場のある試合での〝悔しさ〟をバネにしていた。


 敗れれば連敗は今季ワースト、かつ首位陥落の可能性もあった中、先発・秋山が危機を救った。7回まで三塁を踏ませず4安打無失点。秋山は「こういう状況で自分に(先発が)回ってきたので(連敗を)止めたらカッコいいなと思って臨んだ」と、中日・小笠原との投手戦を制した。矢野燿大監督(52)も「申し分ない。今日の試合のほぼ全て」と、同僚の青柳と並ぶリーグトップ・タイの9勝目を挙げた右腕を持ち上げた。

 2年連続の2桁勝利にも王手をかけ「そこで止まらないように」とさらなる量産を期すとともに、理想はあくまで6回3失点以内のクオリティー・スタート(QS)ではなく「先発・完投」だ。

 その決意を改めて強くしたのが7月4日の広島戦。3―2とリードしながら3回限りで降板指令が下り、試合も3―4で逆転負け。その悔しさは相当だったようで「もっと信頼される投手に」と結果だけなく、チーム内での評価を上げる目標も常に公言してきた。

 それをかなえるべく〝行動〟も妥協がなかった。一、二軍で調整登板を行った五輪休止中は、登板の度に「どうでしたか?」と自軍だけでなく、機会を見つけては他球団関係者にも印象を聞いて回った。エキシビション試合期間中、移動の際に偶然出くわし〝直撃〟されたというライバル球団の関係者は明かす。

「驚きましたけど、それだけ客観評価を大事にしようとする姿勢は大したもの。『6回3失点で勝って、安心しているようじゃ先もない』とも話してましたし。今どきエースでもQSで『試合を作ることができて…』みたいな投手が多い中で『完投を目指すのが当たり前』的な考えで日々調整しているだなって、敵ながら好印象というか感心しましたよ」。

 先発は試合を一人で投げ切って初めて〝一人前〟。昭和の香り漂う三十路右腕はこれからさらに頼りになる存在になりそうだ。