熟練指揮官が異例の〝反撃〟だ。日本球界に衝撃を与えた、巨人・原辰徳監督(62)による公式戦での野手の中継ぎ起用。本紙専属評論家の伊原春樹氏ら巨人OBから采配批判も飛び出し、大きな議論を呼んでいる。ただ、コロナ禍の異例のシーズンを勝ち抜く策を講じてきた指揮官にも言い分はある。赤裸々に明かした持論の内容とは――。

 7日の中日戦(ナゴヤドーム)は攻守に精彩を欠いて1―7で敗戦。相手先発・大野雄に完投を許し、試合後の原監督の表情も冴えなかった。

 その指揮官が前夜(6日)の阪神戦(甲子園)で繰り出した〝奇策〟が大きな波紋を広げている。11点差をつけられた8回一死から6番手の投手として、代走の切り札・増田大輝内野手(27)をマウンドに送った。ベンチには接戦や勝ちパターンの救援陣が4人残されていたが、今後の過密日程を見据えてあえて温存した。

 この決断を巡ってグラウンド外では賛否両論がわき起こり、一気にヒートアップ。巨人OBの上原浩治氏やダルビッシュ有投手(カブス)のメジャー経験者は原采配を支持。一方、古参の球団OBからは反対意見が上がった。原監督の下でヘッドコーチも務めた伊原氏は「これはダメ。巨人の伝統的な戦い方からかけ離れている」などと厳しく指摘し、元監督の堀内恒夫氏は自身のブログ上で「これはやっちゃいけない」と怒りをあらわにしていた。

 一夜明けた7日の試合前、原監督は「(OB陣などが)何か言っているらしいね」とニヤリと笑うと、伊原氏の異論に対して「いいんじゃない? そういう人がいても」と寛容な姿勢をみせた。

 批判は甘んじて受け入れるが、現場の最高責任者として言い分はある。原監督はやや語気を強めながら、こう持論を展開した。

「俺たちは勝つために、目標(優勝)のために戦っているんだから。今年は、特にケガ人も多い。コロナ禍のルールというのもある。簡単に『ダメだ』と言うのは本末転倒のような気がする。(逆の立場の)俺だったら言わない。(野手の投手起用は)ジャイアンツの野球ではやってはいけねえんだとか、そんな小さなことじゃないんだよ。俺たちの役割は」

 指揮官の任務は、連戦続きの特殊日程だろうがリーグ連覇、その一点にある。そのために負担を分散させるテーマにも取り組んでいる。増田大の登板も以前から進めてきたプランの一つで「思いつきとか、そういうものではない。昨日は現実に起きたということだね」とした。

 かたや、巨人は創設86年の老舗球団。これまでに数え切れないほどの人が携わり、それぞれに思い入れや主義、主張がある。その一つに「伝統」を重視し、守ろうとする意見があるのも当然だろう。ただ、現在の現場で指揮を執る原監督には「固定観念が一番いけない」との理念もある。

「伝統」を守ることが重要なのか「伝統」を〝破壊〟してでも突き進むことが重要なのか…。双方の主張は平行線をたどりそうだ。