阪神の藤浪晋太郎投手(25)が26日に新型コロナウイルス感染の疑いでPCR検査を受け、陽性であることが判明した。NPBが4月24日のシーズン開幕を目指す方向で一致し、動き始めたばかりとあって球界全体への衝撃は甚大だ。思わぬ試練に見舞われた格好の藤浪だが、チーム内外からはそんな背番号19を支持する声も数多く上がっている。その理由とは――。

「においを感じない。コーヒーもワインも味がしない」。藤浪が感じ取った異変は、発熱でも咳でも倦怠感でもなかった。「嗅覚異常」と呼ばれる症状。世界的に猛威を振るう新型コロナウイルスに感染した若者特有の初期症状として、つい最近、認知され始めたばかりのものだ。

 24日に兵庫県内の耳鼻咽喉科と内科の2病院を受診。そこでは「季節特有のアレルギー」と診断された。だが藤浪は、翌25日の朝に飲んだコーヒーから「香りが感じられなかった」ことに改めて不安を覚えチームドクターに相談。前日とは別の病院の耳鼻咽喉科を紹介され、新型コロナウイルス感染の可能性があると告げられたという。

 報告を受けた球団は迅速な措置を取った。26日に鳴尾浜球場で行われることになっていたソフトバンクとの二軍戦は中止とし、すべての選手、監督・コーチ陣に1週間の自宅待機を指示。甲子園球場と鳴尾浜球場は消毒作業が行われた。

 球団職員に対しても自宅待機令が発せられた。チームは決算期のため、必要最低限のスタッフは球団事務所で業務を続けるが、阪神はユニホーム組・背広組ともに最低でも1週間の機能停止状態に突入した。4月24日のシーズン開幕を信じチーム強化、営業面の両輪で再スタートを切ったばかりの阪神にとってあまりにも大きな痛手だ。結果として藤浪はチームを“停滞”させてしまったことになる。

 26日夜になって藤浪の新型コロナウイルス感染が判明したが、チーム内から藤浪を責める声はほとんどない。それどころか、細心の注意を払い、2日間にわたり複数の病院で診察を受けた藤浪を「勇気ある行動をしてくれた」と“敬意”を表する言葉が相次いでいる。

 球団関係者は「プロ野球にかかわる人間すべてが恐れていたことは、自分が“NPB感染者第1号”になってしまうこと。それがゆえに、発熱や咳のようなわかりやすい症状があったとしても怖くて黙っていた人はいたかもしれない。そんな中でも藤浪は自身の変化を見逃さず、診察を複数回も受ける決断をした。勇気の要る行動だったと思う。藤浪の才能だけでなく、彼の思慮深さやチームに対する真摯な姿勢はみんなが知っている。ただでさえスランプに陥っている最中だが、必ずや成績面でも復活してくれると俺たちは信じている」と力を込めてエールを送る。 

 球団OBも「志村けんさんなど各界の著名人が相次いで新型コロナウイルスに感染してしまっている今、球界から感染者が一人も出ていない状況は逆に不自然だった。陽性は残念だったが、彼の姿勢はリスペクトすべきもの。チームメートもそんな彼を愛し、今後とも支えてくれると思う。今回の件も必ずや乗り越えられるはずだ」と藤浪の人間性を高く評価した。

 ここ数年は制球難に悩まされ、時に心ないバッシングを受けることもあった。だが、この状況下で藤浪の誠実な人間性は改めて証明されたとも言える。プロ野球初の感染者となったが、まずは病気を治し、一日も早い復活を期待したい。