新型コロナウイルス感染「陽性」となった阪神・藤浪晋太郎投手(25)の気遣いだったのかもしれない。PCR検査を受ける旨の発表があった前日の25日、記者は練習後の藤浪に単独で話を聞く機会を得た。

「藤浪さん。少しお話いいですか?」。普段なら「いいですよ。何ですか」と返してくれるが、この日は違った。開口一番「今日はいつもより手短にお願いします」。

 この返答に若干、ひるむところはあった。私のような新米記者にも、いつもなら短いながらもしっかり答えてくれる藤浪の様子が何か違う。だがこちらも仕事だ。足早に歩く藤浪に必死についていき2つ、3つ質問を終えたところで「今日はここまでで」と言い残し、すぐにクラブハウスへ引き揚げてしまった。

「聞かなきゃいけないことがまだあったのに、なぜなんだろう」。藤浪の後ろ姿を見送りながら記者は途方に暮れた。

 だが26日の発表で納得した。自らの症状がはっきりせず苦悩を抱える中でも、周囲を巻き込むリスクを考えていたのではないか。記者も自宅待機となったが、記者に対する藤浪なりの配慮が垣間見えた出来事だった。(桂川智広)