【球界を支える異色野球人】「今の仕事ですか? ひと言で言えばコーチと選手の間に立つ中間職みたいなものです。自チームの投手陣の状態を見ながらデータ管理、映像分析などもしています」

 本拠地・楽天生命パーク内の一室でこう話すのが2017年まで巨人、楽天で投手として活躍した金刃憲人さん(35)。昨年までチームの打撃投手だったが、今季から戦略室サポートグループの一員へと転身した。

「引退後は打撃投手をやるはずでしたが、背中を痛めて投げられなくなりまして。18年2月から『データ、映像分析をしてくれないか』とチームから言われて手伝い始め、今年正式に今の肩書になりました。でも、最初は戸惑いました。ずっと楽天の選手としてプレーしていたのに、この部署が何をしているのかよく分かりませんでしたから。それに、映像機器なんて…触ったことすらなかったですからね」

 シーズン中は連日、試合を見ながら自軍投手の映像を集め、クセや体の状態を把握。試合後や翌日に、分析した結果を首脳陣や選手に伝達し、次回の登板に生かしてもらうのが主な役割だ。地味な裏方業だが「この仕事は天職なのかもしれない」と本人は、やりがいを感じている。

「僕は選手あがりですから、やっぱりプロ投手の気持ちが分かる。まだ年齢的にも若いですし、選手目線でも見られる。例えば負けた試合や打ち込まれた試合後の投手って、監督やコーチに直接指導されても受け入れられなかったり、何か言いたくても言えない時がある。そんな時に、選手に寄り添いながら次の登板に向けての準備や修正点を伝えたり、選手の気持ちを首脳陣に伝えられる仕事って自分にしかできないと思っている。僕も現役時代に、いろいろとつらい経験をしましたから。その経験を今の選手たちに生かすこともできますしね」

 金刃さんは06年ドラフト希望入団枠(現在の1位指名相当)で巨人入り。1年目から先発陣の一角を任され、即戦力左腕として将来を嘱望された。だが、2年目以降は低迷。12年オフにはトレードでの楽天移籍を余儀なくされた。

「僕は(トレードで)巨人を出された時点で、自分の野球人生は終わったと思いました。そんな僕を楽天が拾ってくれたので『それなら環境も変わるし、野球人生を悔いのないようにしよう』と気持ちを切り替え、そこからサイドスローにフォームを変えたりと自分なりに努力をして現役生活を続けました。その場を与えてくれたのが楽天ですから、どんな仕事でもいい。このチームの力になり、チームが勝てばいいんです」

 裏方業は今季で2年目。最近は「選手の代弁者」として頼られるため、裏方冥利に尽きる出来事も増えてきた。今季、印象に残っているのは7月19日に美馬学がソフトバンク相手に完投勝利を飾った一戦だという。

「その日の美馬は8回まで完全試合。9回に2安打を許し、パーフェクトこそ逃しましたが、実はその前日に『フォークの握り方が分からない』と言ってきた。すぐに僕は映像チームに、いい時と悪い時のフォークの握りが比較できるスローモーション映像を作ってもらうようにお願いし、彼に見せたんです。そしたら翌日に快投でしたからね。僕はただ彼の依頼を映像チームに仲介しただけなんですが、その後、美馬に『映像スタッフが必死になって、お前のために映像を作ったんだよ』と伝えたら、彼はすごくそのスタッフたちに感謝してくれました。こういうことがあると、選手と裏方スタッフが一丸で戦っていると感じる。うれしいですよね」

 今季チームは3位に躍進。来季はさらなる上位を目指す。そのためにはサポートする自身の成長も欠かせない。

「これまでは投手陣のサポート役でしたが、来季からは映像、データを駆使して捕手や打者にもアドバイスできる存在になりたい。そうすれば、投手だけでなく、もっとチーム全体の力になれるはずなので」

 黒子に徹しながらもチームの底上げを見据える金刃さん。チーム内での存在感は日に日に高まっている。