【広瀬真徳 球界こぼれ話】パドレスのダルビッシュ有投手が今月上旬、自身のツイッターで発したMLBへの提言が話題になっている。

 同投手はMLBが今月中旬から投手の不正な滑り止め(粘着物)使用を減らすため取り締まりを厳格化する方針を示したことに対し反論。「なぜ日本では滑り止めは使われないのに、MLBでは使われるのか? ボールに問題があるってMLBはわかってんのにお金のためかずっと滑りまくるボールを提供してくる」と問題提起した上で「投手がボールに異物をつけるのあかんかったら、打者も素手で何もつけずに打ってくれ。バットが滑るから何かつけないと振れないとかって理由なら滑るボール使ってるMLBのピッチャーも一緒。フェアでもなんでもない」と怒りをあらわにした。日頃の穏やかな投稿とは明らかに異なる強いメッセージ。日々メジャーでしのぎを削る投手として腹に据えかねたのだろう。

 この主張、賛否両論あるかもしれないが個人的には正論だと思う。バッターは何十年も前からバットに滑り止めを塗ることが許されている。滑り止めの種類も豊富だ。投手も白い粉状のロジンバッグが使用できるとはいえ、打者のグリップエンドに吹きかける噴射式の滑り止めやジェル状のものと比べれば粘着力は異なる。この状況下でMLBが投手だけに不正な粘着物使用を取り締まるのは理解に苦しむ。滑り止めの不正利用防止に本腰を入れるなら、昔からあるルールとはいえ、打者と投手の滑り止めを共通にする必要があるはずだ。

 もっとも、メジャーでは投手による粘着物の使用を長年黙認してきた経緯がある。実際に取材現場でも投手が“不正”な滑り止めを使用している話を聞くことは珍しくない。「帽子のツバやユニホームの首元に松ヤニを染み込ませる」や「スパイクの紐部分にワックスを染み込ませる」等々。某投手は具体的にどのような方法で指に付着させるかを説明してくれたこともあった。そんな事実を見過ごし、今になって本塁打減やボールのスピン量増などを理由に取り締まりを強化するのはMLBのご都合主義と言わざるを得ない。まずは滑り止めの使用を公に認めるか、滑るボールを改善するのが先決。その上で使用量や頻度、種類などを明確に定めていくべきではないか。

 メジャーは「勝ち負け」を明確に決めたがる一方、暗黙のルールにはかたくなにメスを入れようとしなかった。この曖昧さがある限り問題は解決しない。今こそMLBは誰もが納得するルール作りに着手してもらいたい。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心にゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。