【ボートレーサーのイチ押し!】一流ボートレーサーのとっておきの「宝物」を紹介する好評企画・第3弾は、今最も“旬”な男が登場! 先月の桐生SG「メモリアル」で劇的Vを飾った菊地孝平(38=静岡)だ。現在、獲得賞金8021万円で首位争いを演じる菊地が「他に代えられないただ一つの宝物です!」と提供してくれたのは、まさにお金では買えない思い出の逸品だった。

 バイク、山登り、キャンプ、うどん作り…。多趣味な菊地にとって愛着ある道具は数え切れないが「唯一無二のモノといえばこれしかないです」と胸を張る。世界でたった一つの宝物とは、岩手県立不来方高の野球部時代に使用していたグラブだ。

 一見しただけで大切に保管されていたことが分かる。入念に磨かれ年季の入った内野手用グラブは当時人気の「篠塚モデル」。内側には高校名とネームが刺しゅうされている。

 小学2年で野球を始め、高校卒業まで11年間白球を追いかけた。不来方高3年では1番・ショートでレギュラー。最後の夏、3回戦で県内屈指の好投手から初回に左翼線二塁打を放ち、先制ホームを踏んだ。しかしチームは逆転負け。野球と決別し、ボートレースの世界に飛び込んだ。

 いまやトップレーサー。艇界屈指の知性派と言われる菊地の頭脳には野球で培った礎がある。「例えば9回二死満塁でショートにゴロが来る。こういうプレッシャーの中、ミスしないようにプレーしたときほどミスするって学んだ。それは今につながっていますね」。前述のメモリアル優勝戦、1周2Mでは「できねーなら思い切って!」と腹をくくってハンドルを切ると「自分の技量以上」という最高のターンが飛び出し、逆転Vを飾った。

 常に自分と向き合い、悩み、迷い、考え抜いた末に最後は開き直って無心になれるメンタルバランス。今も生きる「財産」と引き換えに流した汗がグラブに染み込んでいる。

☆きくち・こうへい=1978年8月16日生まれ。静岡支部の82期生。98年5月の浜名湖でデビュー。2001年5月のびわこで初優勝。GⅠ初Vは04年7月のとこなめ51周年記念、SG初Vは05年8月の若松メモリアル。14年には「最優秀選手」「最多賞金獲得」「記者大賞」の3冠に輝く。通算49V(GⅠ・9V、SG・5V)。身長166センチ。血液型=AB。