ボート界のレジェンド 語り継ぎたい思い出の名勝負

【亀本勇樹(53、広島・57期)】1995年 宮島「開設41周年記念」

 ボート界屈指の個性派であり、重量級強豪の代表選手でもあるのが広島のベテラン亀本勇樹(53)だ。体重とは裏腹に語り口は実に軽妙。唯一のGⅠタイトルとなったのは1995年の宮島「開設41周年記念」だ。

 SGや記念戦線に参戦するようになったのが今から25年前。デビュー当初は現在のように最低体重制限がなかった時代で、ピット内は常に殺伐としたムードが漂っていた。飲まず食わずで極限まで体重を絞り、レース場入りする選手も多数。

「今とは全然、空気が違うわな。みな殺気立っとったし、進入も展示と本番でガラッと変わることも当たり前やった。ペラを見せ合うようなことなんてまずないしね」

 デビューしてほどなくして内寄り主体のスタイルを貫くようになったが、記念戦線ではダッシュ戦を余儀なくされることも多かった。それが「心の余裕」をジワジワと奪っていく。

「新鋭(リーグ)や一般戦ではすぐに内を取ったけど、記念ではとてもコースは取らしてもらえん。レースでどう攻めるかよりも、まず自分がどのコースになるか全くわからんかったのがつらい。だから常に余裕がないんよね」

 GⅠデビューを果たしてから6年目に巡ってきた絶好のチャンスが地元の周年記念だった。メンバーは(1)福永達夫(2)芝岡春繁(3)亀本(4)林貢(5)烏野賢太(6)小林嗣政。

「林さんが外におったのが大きかったかなあ。無理してコースを取りにくるような人でもなかったし、このメンバーなら4カドが取れそうと思ってたし、実際にそうなった」

 イン福永が流れたところを4カドから艇間を鋭く割り差し強襲。読み通りの展開に体が瞬時に反応した。

「地元の記念を取れたことは最高の勲章やし、うれしいに越したことはないけど、不思議と感慨みたいなもんはなかったんよね。それよりあれを勝ったことによって、いろんな先輩からその後『カメ、カメ』って声を掛けてもらえるようになった方がうれしかった」

 公式プロフィルでは60キロだが、実際は57~58キロで走ることが多い。それは今も当時も変わらない。「周年を勝った時も58やからね。当時は宿舎にサウナがなかったもんやから湯船だけでそれ以上落とすのは無理(笑い)。ま、あってもそこまで落とすつもりはないけどね」

 来週14日にはプレミアムGⅠ児島「マスターズチャンピオン」の大舞台が待ち受けている。「若いころから無理な減量をしとらんから腰も大丈夫!」と高笑い。

 20年前のGⅠ戴冠時の写真は今とほぼ同じ58キロでも現在、どことなくほっそりとした優男に見えるのは、年を重ねた証拠でもある。

☆かめもと・ゆうき=1962年2月8日、広島県生まれ。85年、宮島でデビュー。89年6月の江戸川で初V。95年の宮島開設41周年記念でGⅠ初優勝を飾る。57期の同期には長岡茂一らがいる。身長163センチ。血液型=A。